Music Diary

[ 2009.03.25 ]

椎名 豊、8年ぶりの新作がマックスにうれしい

 待っていたかいが、ありました!!
 椎名 豊が帰ってきました。あの温かく、清明な音色。壮大な展開をもつ彼ならではのピアノとジャズが、新作『ウォーキン・イン・ザ・クラウズ』で帰ってきたのです。

 前作『ハッピー・トゥ・スウィング』(BMGファンハウス) から、8年。欧米でも評価の高いこのピアニストが、これほど長いあいだアルバムを制作しなかったのには、それなりの理由があります。
 ざっとまとめると、
 1.1年に1・2回ほど、アメリカの精鋭ミュージシャンと日本ツアーを実施。
 2.ニューヨークをはじめとするアメリカ、EU各国、クロアチア、モロッコと、日本よりも海外で多く活動。
 3.2003年から東京フィルハーモニー交響楽団に招かれ、共演。
 4.小学生から大学生を対象とした、ジャズの楽しさを教える講座を開講。
というふうに、精力的な活動をこなし、多忙な日々を過ごしてきたからだったのです。

 ちなみに、3.では、2009年2月に、ガーシュウィン作曲「ラプソディ・イン・ブルー」をエリック・カンゼルの指揮で(自己の日本トリオで)演奏して絶賛をあび、4.は好評のうち全国規模に広がっている。

 椎名本人も、次のように語りました。
 「正直に言って、ブランクとはまったく感じていません。音楽に携わる者として、実りある日々を送ることができたと思っています」

 一方、周辺的な要因としては、1991年にロイ・ハーグローブ(tp)やアントニオ・ハート(as)らと結成した日米混合グループ「ザ・ジャズ・ネットワークス」(椎名は日本側のリーダー) の諸作、そしてデビュー作『ムーヴィン・フォース』(94年)以降の、自身のリーダー作の担当プロデューサーが、BMGを退社したことが挙げられます。

 しかし、ポジティヴな椎名は、「それならば、いつか自分自身が作りたいようにアルバムを制作しよう」と、心に誓ったのでした。
 そのために、08年11月には、シーナ・ミュージックと命名した自己レーベルを立ち上げました。
 02年には結婚し、人としてもより大きくなった椎名が、新レーベル第一弾として、満を持して世に送り出すのが、『ウォーキン・イン・ザ・クラウズ』なのです。

◆      ◆      ◆

 椎名はレコーディング場所に、教鞭をとったミシガン州立大学がある、ランシング近郊のスタジオを選び、08年の4月、レコーディングに臨みました。
 「ミシガン州で一番いいピアノがある」と、ロドニー・ウィテカー(b) が太鼓判を押したスタジオです。

 共演者を、椎名本人から紹介してもらいましょう。
 「まず、ロドニー・ウィテカー(b)ですが、彼の持ち味はストロングなベースです。しかも、反応が素晴らしい。今作では、ぼくのオリジナル〈タック・ア・ウェイ〉、チャールズ・ミンガスの〈トゥー・ビー・エス〉といった曲でのスピード感のあるプレイに感嘆しました。彼を選んだ意図がいい形で出たので、ぼくとしてもうれしいですね。

 広瀬潤次(ds)とは、94年から一緒に活動していますが、素晴らしい反応とスウィング感の持ち主です。ぼくのプレイを知り尽くしているので、リズムのキャッチボールが非常にスムースなのです。また、すべての演奏を包み込む、パワーと懐の深さがある。

 ティム・アマコスト(ts)は太くて温かみのある音色の持ち主で、心の中にストレートに入ってくる表現力をもっています。タイトル曲のソロではストーリーをつなげてくれ、とても気に入っています。

 また、本川悠平(b)が〈ビタースウィート〉で、ロドニーと一緒にベースを弾いています。81年8月生まれの若きベーシストですが、早稲田の学生だった頃から、ぼくのワークショップに顔を出していた。05年からトリオに参加し、会うたびに成長していて、ぼくを驚かせるプレイヤーです」

 椎名自身のピアノの成熟も、本作のハイライトのひとつ。アップ・テンポの曲でも、一音一音がくっきりと鳴り、連打での均等な響きは、日頃の研鑽の賜物でしょう。また、無駄な音はひとつとしてなく、バッキングでの抑制された表現も絶妙ですね。

 曲想の面でも、以前から、「日本にはめずらしい、壮大なジャズを描けるピアニスト」と言われてきた彼ですが、スケールがさらに大きくなりました。しかも、オリジナル・ナンバーのメロディの美しさが、以前より際立っています。
「歌いやすいメロディを書きたいと、常に思っています。作曲するときも、まずメロディを書きます。メロディのなかに、リズムとハーモニーがあると思っているのです」

◆      ◆      ◆

 わたしは、2月のある夜、東京・六本木「アルフィー」に、椎名 豊トリオを聴きにいきました。
 ファンを前にしても椎名の演奏は、全体を眺望する視線を失わず、と同時に細部にもパッションをこめて、常に真摯な演奏を繰り広げました。
 本川悠平のベースもよく歌い、広瀬潤次のドラムスが広くない店内で、一度も大きすぎると感じさせなかったことにも、感銘を受けました。音楽への献身から生まれたふるまいだったからです。技量があり、引き出しも豊富なドラマーが、引き立て役に徹する姿に、椎名の幸運を感じたわけです。

 その広瀬が、本作の椎名を評して言いました。
 「音に椎名さんのオリジナリティが出ていて、かつジャズのサウンドがする。彼のピアノはスウィングし、ダイナミクスが素晴らしいだけではなく、リズムの幅が広いのです。リズムでもニュアンスをつけて表現するため、より立体的になります。こういった表現をするのは、世界で彼しかいないのです」
 さすが、うまいこと解説していますね!

◆      ◆      ◆

 ですから、待っていたかいがあった!!
そう、ファンに納得させてくれる、『ウォーキン・イン・ザ・クラウズ』なのです。
 ここにある前向きなエネルギー、そして真摯な姿勢は、永年にわたるMusic Diaryの最終回にふさわしいものと、選びました。椎名さんが「出したいアルバムを出させてくれるレコード会社がないなら、自分でレーベルを作った」ように、わたしも新たに個人公式サイトを立ち上げます。

 これからも、よろしかったら、遊びにきてください。今まで、ありがとうございました。
 心からお礼申しあげます。

↑ このページのトップへ | Music Diaryの一覧へ


椎名豊
『Walkin' in the Clouds』

Scene-a Music
2009年4月22日発売予定
※ 権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。