Music Diary
[ 2010.06.04 ]
ニッキー16歳の歌声
ヴァンクーヴァー冬季オリンピック開会式で、カナダ国歌を歌ったシンガーを覚えていますか。
ニッキー。
現在16歳になる大型新人です。
そのニッキーを選んだことで、カナダは未来に開かれた国家イメージを世界の聴衆に植え付けることに成功しました。
実は、ニッキーが赤いドレスでスタジアムに登場したとき、その大抜擢にわたしは目を丸くしたのです。ご本人も、というのだから、面白いですね。
ニッキーが言いました。
「最初にお話をいただいたときには、ウッソ〜っていう感じでしたね。
でも、ほんとうだと解ってからは、人に言わないようにするのがたいへんだった。だって、うれしかったんですもの!」
10月の単独公演を前に来日したニッキーは、カナダ大使館内オスカー・ピーターソン・ホールで、世界デビュー・アルバム『ニッキー〜フォー・アナザー・デイ』からの楽曲を中心に披露しました。
まず、オリンピックで着た赤いドレスで国歌〈オー・カナダ〉を熱唱。
それ以降は、ハイヒールをフラット・シューズに履き替えて、オリジナル曲〈フォー・アナザー・デイ〉は素直なかわいさを。
〈A列車で行こう〉や〈アイ・ガット・リズム〉といったジャズ・スタンダードでは、ぐいぐいとスウィングする歌を聴かせました。
ダイナミクスもあり、さすが、歌唱力で定評があるニッキーである。
◆ ◆ ◆
彼女のようにスタンダードを中心に歌い、世界でヒットさせるシンガーは、近年はカナダ出身というケースが多いのです。
直近でもマイケル・ブーブレにソフィー・ミルマン。少し世代を上げるとダイアナ・クラールにホリー・コール、k.d.ラングと枚挙にいとまがないのです。
カナダ出身の歌手がもつたっぷりとした声量は、人口密度の少なさ・自然に恵まれた土地柄と無縁ではありません。
アメリカでは流行に押され、時代遅れと言われる懐かしいテイストの音楽であっても、受け入れる土壌がカナダのマーケットにはありますしね。
ただ、ニッキーの存在は、前述の先輩歌手と少しおもむきを異にしているのではないでしょうか。
先輩たちが切り開いた「大自然をようするカナダの歌」から、またひとつ違う地平へと変化したとのではないか。
ニッキー自身に聞いてみました。
幸せな家庭に育った16歳のあなたが、なぜ多様な物語を歌えるのか、と。
彼女は素直な笑顔で、こう答えました。
「人生の辛さを歌った歌でも、その経験をしなければ歌えないということはないわ。
歌に共感をもってつながっていくだけ。2歳のときにシンガーになりたいと宣言してから、迷いはないの」
健康法は・手を洗う・水を飲む・ビタミンCをとる・8時間眠る・冷たい飲食物はとらない。
素晴らしいと思います。
それは、21世紀型の表現者と呼べるもので、石川遼選手や、浅田真央選手とも共通した、自主的かつ徹底したプロフェッショナリズムがいわせることばだからです。
ただ、時間が経つにつれて、考えが、少し深まりました。
そして、こんなことを思ったのです。
わたしが教鞭をとっている大学で接する21世紀生まれの学生たちは、(世間の風評に反し)コミュニケーション能力にたけています。
相手に合わせようとし、空気を読み過ぎるほどです。
ケータイを小〜中学生からもって育った彼らは、空気を読まなければ、人とコミュニケートすることができなかったからです。
そして、幼少からインターネットが身近にあったこの世代は、ネット上やTVの画面のなかが想像の源になっています。
つまり、未体験のまま、様々な体験に既視感(デジャヴ)をもっているのです。
ニッキーが期待されるシンガー像を無意識に演じていると、言うつもりはありません。
でも、いい子なんです。両親に喜んでもらいたいと潜在意識で思っても、不思議はない。
また、彼女の「共感」が、そういった既視感からでていることを、彼女自身は知っているでしょうか。
ニッキーが経験をつみ、実際に体験した喜びや、流した涙を糧に歌うようになるとき、歌はまた必ず変化します。
10年後、そして20年後に、またインタビューする約束をニッキーとしました。







