Music Diary
[ 2009.12.12 ]
Pit Innレーベル+池田篤(as)
池田篤のリーダー・アルバムを、もっと聴きたい。
そう思っていたのは、わたしだけではなかったようです。
それが証拠に、日本を代表するピアニストの一人である辛島文雄が、最近ことあるごとに、池田篤に「自分のグループをもて」と言っていたのだそう。
辛島さんがいいました。
「池田篤は、ジャズもできるミュージシャンではなく、ジャズができるミュージシャンなんだ。
その違いは、わかるでしょう?アッチャンもいい歳になってきた。自分自身の音楽をやってもいい頃だ。
だから、いったんだ。
お前がバンドやるんなら、俺はそのバンドでピアノ弾いてもいいよって」
池田アッチャンは、2003年から辛島グループに参加してきましたが、そこで培われてきた信頼関係がいわせたことばでした。
ちなみに、辛島さんがサイドマンとしてピアノを担当したのは約30年前、エルヴィン・ジョーンズのグループが最後なのですから。
池田篤の意志と辛島文雄の想いが結合して生まれたのが、新作『ヒア・ウィ・アー』なのです。
◆ ◆ ◆
アルバムの紹介に移る前に、アッチャンの足跡を振り返っておきましょう。
1963年横浜に生まれ、国立音楽大学在学時から、山下洋輔(p)ほか数多くのグループで活躍。新たなる活動の地を求めて、90年から95年まで拠点をニューヨークに移し、多大な影響を受けたマーカス・ベルグレイヴ(tp)の作品に参加(92年)した他、ウィントン・マルサリス(tp)、ジュニア・マンス(p)、ジェシー・デイヴィス(as)らと親交を深めた。
96年、ベルグレイヴも参加した初リーダー作『エヴリボディズ・ミュージック』(King Records) を発表。帰国後は月1回のペースでソロ・サックスの活動を開始し、それは今も続いているが、ひとつ
の集大成として04年に、ソロ・サックス・アルバム『かはたれとき』(Objet Cafe) を発表している。
2006年秋に日米混合グループである"ザ・イースト・ウエスト・アライアンス"を結成。シアトルでスタジオ録音した『ザ・イースト・ウエスト・アライアンス』(CUG Records) を07年に発表。
また、小曽根真フィーチャリング・ノー・ネイム・ホーセズの第3作『ジャングル』(09年、ユニバーサル クラシックス&ジャズ) にも1作目から連続して参加。
近年は、個性あふれるソロ、あるいはアンサンブルへの献身をディスクで耳にする機会も増えています。
◆ ◆ ◆
このアルバムは、ピットイン・レーベル (http://www.pit-inn.com/music/jp/label/label.php)の第2弾として発表されるのですが、このレーベルは新宿ピットインで行われる素晴らしきライヴをディスクに残そうというコンセプトのもと、今年(09年6月)創設されました。
新宿ピットインには「スタジオ・ピットイン」が併設されており、その「Studio B」は会場と32chマルチラインで繋がっているので、高音質のライヴ・レコーディングが可能なのです。
本作は、同スタジオでリハーサルを1日行った後、翌5月13日に新宿ピットインのステージで録音されました。
池田篤本人は、本作をレコーディングしたモチヴェーションと共演メンバーについて、次のように語っています。
「今作では、ありのままのぼくの演奏をお届けしたいと思いました。
ピットイン・レーベルから『2管でライヴ・レコーディングを』というお誘いがあったとき、ぼくとしても、もちろん辛島さんとやりたいと思ったわけです。
当初は、バンドはレコーディング用に組まれるのだと思っていましたが、辛島さんはそれ以上のことを考えてくれていた。今は、このグループを続けられたらいいなと、思っているところです。
辛島さんのピアノは、ジャズの香りがするところがすごく好きなんです。
岡崎好朗(tp)は、2ホーンならと、真っ先に思い浮かべました。彼はクールなので、隣にいてくれるととても安心できるのです。
島田剛(b) はしっかりした基盤をもちながら、新たなことにも挑戦している点に、高橋徹(ds)は人間性が素晴らしく、常に努力している点に、特に共感をもっています」
では、池田篤自身はというと、一言で語れるサキソフォン奏者ではありません。
デューク・エリントン楽団が誇るジョニー・ホッジスを彷彿させる、官能的なサックスは他の追随を許さず、そのプレイからは、彼の繊細な感性が伝わってきます。
そうかと思えば、ビバップのスピリットを汲む演奏からは、人とは同じことをしないという、彼の改革の精神が汲みとれます。
剛と優、虚と実、改革と伝統の両極を軽々と行き来するのが、池田篤の音楽だと感じてきました。
ですが、近年の彼の演奏は、そういった両極を行き来する大きな振幅以上に、音楽の中心にあるゆるぎない軸を感じさせます。「何をやっても池田篤」といったら、誉めすぎでしょうか。
肩の力がぬけた、「平常心」が常に演奏から感じられ、そのことに憧れてきました。
人物にしてもそうなのです。飄々としているというか、だいたいのことには慌てず、騒がず。「春風を切る」とは、彼のようなアティトゥードをいうのでしょう。
◆ ◆ ◆
池田アッチャンの「平常心」は、そのまま本作での姿勢でもありました。
「なるべく、いつものままを届けるということを考えました。つまり、細かいアレンジはせずに、アルバムのための演奏はしない。
その場で生まれる音楽を大切に、普段のままを記録したかったのです。結果的にも、当日のセカンド・セットがそのままアルバムになりました」
●M1:フラワー・イズ・ア・ラヴサム・シング
デューク・エリントン楽団の座付き作・編曲家、ビリーストレイ
ホーンのナンバー。「この日始めて、辛島さんとデュオで演奏したのです。美しさだけではない、自分のすべてを隠さずに出すことが理想です」
●M2:ジョンズ・ジャズ・ストア
「1990年に書いたぼくの曲で、ニューヨークのクィーンズにあったレコード店の名です。テナーを吹いていますが、このアルバムが初めての録音になります」
●M4:フォールズ
「今回のレコーディング直前に書き下ろしました」。滝がもつ清爽な気が、2管のサウンドからも伝わってきます。
●M5:ペギーズ・ブルー・スカイライン
「ミンガスが60年代に幾度も録音した曲ですが、スッと身体に入ってくる曲なので、直前に決めました。ミンガスが素晴らしい点は、やったことがよければ、決められたことをやらなくてもいいという
ところです。それはエリントン楽団とも共通しています」
●M7:ブルー・モンク
「テーマはアルトで、ソロはテナーでと持ち替えました。持ち替えは失敗することもあるので、かえってワクワクします」
池田篤のサックスがますます鳴り、あるがままに歌い、心を届けてくることを確信しているわたくしです。







