Music Diary

[ 2008.06.21 ]

ラッド豪首相と上妻宏光

 6月11日、オーストラリアのラッド首相が来日し、その歓迎レセプションが国立新美術館で行われました。休館日を選んでのレセプションでしたが、なぜ国立新美術館で行われたかというと、今、同館で「エミリー・ウングワレー展」が7月28日まで開催されているからなのです。

 ラッド首相がその日スピーチで話されたように、「エミリー・ウングワレーは、希有な才能をもったアポリジニの画家であり、オーストラリアが誇りとする現代作家であります。わたくしはオーストラリア先住民であるアポリジニに、豪首相として、初めて昨年正式に謝罪しました」

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 ラッド首相のことを、オーストラリアのオバマというジャーナリストもいますが、新時代のリーダーであることは確か。聡明なだけでなくユーモアもあります。

 わたくしは、豪ジャズの感想を聞かれたので、「オーストラリア人の気質は、ジャズの即興に向いていると思う」と言うと、ラッド首相は「貴国のあなた方のように、楽譜を暗譜できないだけかもしれませんが」と自国側を下げて、ユーモアにして返してくる。そういった応答を、招待客数をしぼったとはいえ、百名以上の芸術・スポーツ関係者とするのですから、大したものです。

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 ラッド首相は1998年に初当選後、2001年にシャドウキャビネット(影の内閣)の外相、2006年に野党党首、そして翌年には首相になりました。

 河野太郎代議士のブログ「ごまめの歯ぎしり」で読んだのですが、影の外相時代に、日本の外務省が彼を招待したのだけれど、訪日中に、外相も副大臣も忙しいとラッド氏に会わず、政務官が面会したそうです。そのときに、政務官が「ようこそいらっしゃいました、私は外交のことは何もわかりませんが」と挨拶をしたそうで、そのことをラッド氏は、知己である河野氏に残念がっていたといいます。

 中国語を完璧に話せるということが、新聞紙上でも話題になっていたラッド首相ですが、対中外交ではいい意味でのリアリストだと、河野太郎氏はほめていました。そして、そのブログにあった「ラッド首相は、西側先進国の現役の首脳として、たぶん初めて広島を訪れたのではないかと思う」という記述が、わたくしのラッド評価を高くしたのはいうまでもありません。

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 さて、このレセプションで、首相のスピーチに先立ち、津軽三味線の上妻(あがつま)宏光が歓迎演奏を披露しました。

 上妻宏光はその日はスーツ姿でしたが、椅子に座り、三味線を構えると、そこに凛とした空気がはりめぐらされるようでした。その日の演奏も、わたくしの好きな「グローカル」なもので、既存の津軽三味線の領域を超えつつ、彼自身のなかに息づくルーツ/伝統を堅守しているものでした。勢いがあり、男らしい、こういった音楽を共有する我が身の幸せを感謝いたしました。

 彼の最新作は、昨年夏に発表された『蒼風(そうふう)』。和の三部作の完結編にあたり、NHK大河ドラマ「風林火山」紀行のテーマ曲〈風林火山〜月冴ゆ夜〜〉をはじめ、日本の神話や民話をテーマに作曲された11曲が収められています。

 わたくしは〈天翔る鳥〉のイメージが、特に好き。火の鳥のような赤い鳥が、日本の野山を飛んでいく、そんな風景が見えるからです。

 上妻とオーストラリアとの縁は、日豪ジャズ・オーケストラの一員として渡豪し、シドニーなどで喝采を受けた時にはじまったそうです。近年マーカス・ミラーとも共演し、活動を広げるだけではなく深めてもいる彼ですから、今後も「グローカル」な軸はぶれさせることなく、革新的な音楽活動をしてくれるだろうと、楽しみにしているのです。

 その彼は、ただ今ツアー中。それも、丸の内のコットンクラブをはじめ、横浜モーションブルーなど、知ったベニューがずらっ。

 そうなのです。今回は、ジャズ・ミュージシャンとトリオを組み、オリジナルからスタンダードまでを新たな試みで披露するという、彼の新機軸での演奏になるのです。
(ツアーのスケジュールはこちら
 これは、楽しみです。ぜひ行きたいと、カレンダーとにらめっこをしているところです。

 「エミリー・ウングワレー展」も、お勧めです。長じてから、ある日突然絵を書き出したという彼女のパワーに、ぜひ包まれて下さい。

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上妻宏光
『蒼風』

EMI Music Japan
TOCT-26304
2007年8月8日発売
写真提供:ユニバーサル ミュージック株式会社
※ 権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。

 
 
ラッド首相来日レセプションでのスピーチ


歓迎演奏をした津軽三味線の上妻宏光さん


在日マクリーン大使、上妻さんと


ラッド首相と話す上妻宏光さん


ラッド首相と歓談するヨウ