Music Diary

[ 2010.01.15 ]

パット・メセニーとの対談 for『オーケストリオン』

パット・メセニーのソロ作といっても、今までのソロ・アルバムから聴こえたサウンドを想像していただくと間違います。わたしが「一人メセニー・グループ」とよぶサウンドが、シンフォニックにここに息づいているのですから。

まず、左側の写真をつらつらと見ていただきたいのです。ピアノ、ベース、ドラムス、ヴィブラフォンに瓶の数々と、いろいろな楽器が写っています。これらをパットの指示の下で演奏するのは、「オーケストリオン」と名付けられた自動演奏システムです。

これは、19世紀末に端を発し、今回パットの尽力で最新のテクノロジーを駆使して完成したものだそう。

当然、このアルバムの音作りの過程は、これまでのパットのどの作品とも似ていません。そして、彼のマルチ・ミュージシャンぶりを初めて披露するものにもなりました。

インタヴューを申し込み、ようやく実現したのは、ライナーノーツの締切日のことでした。以下、パットとの会話の模様を、ここにシェアします。
     ◆       ◆       ◆

●オーケストリオンって、何?
Yo:いやぁ、ソロ・アルバムっていうから、バリトン・ギターのときのような、おとなしめなアルバムかと思ったら、サウンドはまるで一人メセニー・グループ!
最初は自動演奏器と聞いていたので、そのイメージからかけ離れたリアルなサウンドに、ショックを受けました。

Pat:永年の夢がかなったわけだけれど、今度のアルバムばかりは、ぼくにとっても未だにショックな部分が残っている。リスク覚悟で始めたものの、失敗せずに上手くいったことからして驚きだった。

オーケストリオンを再発明できたことも驚嘆に値したし、コンテクスト(文脈)も新しければ、音楽自体も新しい。一言でいえば、It's DIFFERENT ! 
オーケストリオンがまったく異なる音楽的地平へ誘ってくれたんだ。
で、オーケストリオンのことわかった?

Yo:わかってたら、しつこくインタヴューの依頼はしないかな(笑)。

Pat:そうだろうな。実際、これほど人に説明するのが至難なケースも初めてでね。かいつまんで話すことはできないから、話が長くなるけどいいよね?

1978年、ぼくは何本かのギターとヤマハのシンクラヴィアを使って『ニュー・シャトークァ』(ECM)というアルバムを多重録音で作った。シンクラヴィアのシステムはFM音源のシンセサイザー、サン
プラー、シーケンサー、ミキサー、視覚的作業が可能なコンピューター端末、鍵盤で構成される。これらがシームレスに連係して、音色データや演奏データをハードディスクに記録することができるというものだ。

で、今回のオーケストリオンは、このシンクラヴィアが1世紀進化した楽器だと思ってもらいたい。

Yo:マリンバにマレットが多数くくりつけられている写真を見て、これを叩いて音をだすことは想像できましたが、マレットに指令をだしたり制御しているのはコンピューターなのですか。

Pat:基本的に「ソレノイド」がやっている。ある種のロボットだと思ってくれてもいい(編注:ソレノイドは電磁力によって、鉄心を動かすアクチュエイタである)。
このソレノイドが、ぼくがだすインストラクションにあわせて動作する。ぼくは、その指令をギターからだしてもいいし、キーボード、あるいはペンからでもだせるんだ。

だから、演奏時にプレイを自在に変えることができる。そこがサンプルとも、シンセサイザーとも大きく異なるところだ。

5人の異なるテクノロジーを専門とするエンジニア/研究者が、この再発明に関わってくれたが、1人はソリノイドの専門家で、ほかの1人はニューマチックの専門家といった具合。その5人と恊働し
て、新しいテリトリーに踏み込んだというわけだ。

Yo:なるほど、今まであなたがリンダ・マンツァーと共作したピカソ・ギターといった楽器とは、次元がちがうということがわかったわ。

Pat:ぼくだって、このテクノロジーが30年後も現在進行形で使用可能だとは夢想していない。1978年に使ったシンクラヴィアを、もう誰も使わないようにね。
でも、それを使うことで生まれた曲があるわけで、ぼくは今でも好きで〈アー・ユー・ゴーイング・ウィズ・ミー〉をライヴでやっているよ。

それと同様に、今回もオーケストリオンを制作し、演奏することで音楽的な可能性を拡大することができた。そのことが、最も尊い収穫だったと思っているんだ。

●マルチ・プレイヤー、パット
Yo:演奏についてなのですが、ピアノが語りかけてきましたね。ある意味、ギターより率直にあなたの心情を吐露するピアノです。他の楽器も上手くて、驚き。

Pat:ぼくは今でも、曲はすべてピアノかキーボードで書いている。
ベース好きは若い頃からで、プロになってからも弾いていて、レコ--ディングしたこともあるしね。

Yo:ヴィブラフォンは、若かりし頃のゲイリー・バートンとのツアー経験の賜物?

Pat:というより、ゲイリーに見いだされ、共演していた頃からヴィブラフォンやマリンバは結構演奏できた。ゲイリーとツアーに行くと、ぼくがヴィブラフォンのサウンド・チェックを任されていたんだ(笑)。

Yo:それは、知らなかった。

Pat:この新作は、ゲイリーやジャック・ディジョネットといった先輩ミュージシャンたちの友情に負うところも大きいんだよね。

Yo:ドラムスも! やるな。

Pat:ドラムスはすごく好きで、しかもこうあってほしいという確固たるイメージがある。だから、これまでのメセニー・グループのドラマーたちには、ああしてくれ、ここはこうと、結構うるさく口をはさんできた(笑)。
ぼくが何もいわないですむのは、今のアントニオ・サンチェスだけなんだ。

Yo:いや、それも知らなかった。このアルバムを聴き直して、今頃はもっと上手くなろうと、各楽器の猛練習をしているのではないかと思ってたんですよ。と、これは冗談ですけれど。

●レコーディングが第一
Yo:レコーディングなんだから、各楽器をオーヴァーダヴィングして、そのサウンドにのせてギターを弾けばいいじゃん、という意見もでたんじゃないかしら?

Pat:でたとしても、却下だから。

Yo:その理由をわたしなりに考察すると、あなたはライヴ・パフォ--マ--であることを大切に考えている。80年代には1年に 300以上のギグをし、聴衆とつながるとことでファンを増やしてきた。
1アルバムに1曲のみだった『ザ・ウェイ・アップ』のように、あれほど多くのインフォメーションをもった音楽をレコーディングした後でも、苦心惨憺してライヴでも再現・表現しましたね。
このプロジェクトも、ライヴで観賞可能なことを前提に進めたのでは?

Pat:このプロジェクトを始めたのは、ふたつの仕事を遂行するためだ。
第一に、レコードを作る。第二に、ツアーをする。
この順番がぶれることはない。まずはアルバムありきだったね。

Yo:ツアーにでるときは、この写真にあるたくさんの楽器をもっていくのかな?

Pat:写真にあるより、実際はもっと大掛かりになる。

Yo:ひぇ〜〜。ソロといっても、こんなに多くの楽器群の移動と組み立てをしながらツアーをするくらいなら、メセニー・グループを呼ぶ方が安上がりだったりして(笑)。

Pat:笑いごとではなく、事実経費的にはそうなんだ。
オーケストリオン完成までにかかった経費を考えると、多大なものになる。

Yo:でも、このオーケストリオンとレコーディングし、ツアーにもでたかったと。
オーケストレーションへの野望があるんだわ。

Pat:まず、音楽的なことでいえば、5曲書き下ろしたが、どの曲も今までにない構成をもっていて、こういう曲はこのオーケストリオンがなければ作曲できなかった。
冒頭の〈オーケストリオン〉は16分近くあるけれど、これ、全部ぼくが譜面に一度書いているんだ。
だから、スコアが全部で 300ページ以上になった。『ザ・ウェイ・アップ』より大量だ。

Yo:音楽の展開が、確かに今までのパット・メセニーを超えています。
ここに収録された5曲を聴いていると、組曲のような印象も受けました。そんな意図もあったんですか?

Pat:まあ、それは繰り返し聴いているうちに思うことだろう。聴き込むと、曲同士のつながりが聴こえてくる。でも、あえてそれを組曲とよぼうとは思わないな。

●オーケストリンとのツアー
Yo:ツアーには、でるんですよね。

Pat:130から140カ所まわることになる。今年は、忙しくなるな。

Yo:ってことは、日本でもオーケストリオンがみられる?

Pat ぼくが日本をはずすわけがないでしょう。6月に行く。ジャズクラブではオーケストリンは乗りきらないので、ホール・コンサートになるね。
生で聴くと、音がすばらしく良いから、日本のみなさんにも楽しみにしていただきたいな。

Yo:そりゃ、めちゃめちゃ楽しみですよ。
あなたのことだから、新作の5曲だけではなく、旅の間に新曲も生まれるでしょうし。

Pat:それなんだけど、ライヴではこの新作とはまたちがったサウンドをお聴かせすることになる。アルバムは密度が高い音作りで臨んだ。
でも、ライヴでは即興演奏もばんばんやるつもり。

Yo:え!? オーケストリオンは即興もできるの?

Pat:さっきも言ったでしょ、演奏時にプレイを自在に変えることができるって(笑)。
こちらのだす指令次第で、即興に対応できるんだ。

Yo:そうでしたね、ちょっとはわかったつもりだったのに....。
百聞は一見にしかずとは、オーケストリオンのことなんでしょう。来日公演に足を運んで、検証します(笑)。

Pat:オーケストリオンと日本に行けるのが今からすごく楽しみだなぁ。
皆さん、ぜひとも、聴きにきてくださいね。
     ◆        ◆        ◆
パット・メセニーの音楽家としての行動力・集中力には、頭が下がります。
豊潤なアイデアに溢れた人ですが、そのアイデアが革新的。

次作では誰と共演しようかとか、変わった楽器編成でいこうとか、そんなちっぽけなことは考えない。もっとユニークなのですね。
音楽の高みを目指して、そのためにはどんな努力もいとわないし、そのために生きているといっても過言ではありません。

聴き手として、彼についていくのは息が切れることもあるけれど、驚かせ、混乱させてくれる音楽家が現在何人いることでしょうか。

マレットがヴィブラフォンを叩き、タムタムやシンバルが鳴るなかで、一人パットがギターを弾き、音楽をあやつる様を脳裏に描いてみます。

それは祝祭であり、音のパンドラの箱なのかもしれない。
その箱を開けるか、開けないかは、あなた次第なのです。

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51feRlZ7asL._SL500_AA240_.jpgパット・メセニーのソロとは思えないソロ作『オーケストリン』(ワーナーミュージック ジャパン)1月27日発売

Pat Metheny 16 - CREDIT Jimmy Katz.jpg楽器をよく見てください 撮影:Jimmy Katz
写真提供:ワーナーミュージック・ジャパン
※ 権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。

Pat Metheny 5 - CREDIT Jimmy Katz.jpgこのオーケストリオン=楽器すべてをパットがまず演奏しています。撮影:Jimmy Katz
写真提供:ワーナーミュージック・ジャパン
※ 権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。