Music Diary
[ 2010.07.03 ]
キース・ジャレットxチャーリー・ヘイデンの『ジャスミン』
キース・ジャレット(p)とチャーリー・ヘイデン(b)のデュオ作『ジャスミン』を聴くと、その音楽のあまりの優しさに、毎回涙がこぼれそうになります。
特に、冒頭の「フォー・オール・ウィ・ノウ」。
とつとつとピアノを弾くキース。そこにこもる想い。
受けるチャーリーの優しさ。
2人でつむぐ、音楽の平易さが、得難い宝物として心に響きます。
キースがマイルス・デイヴィスのグループを離れ、初めて自分のトリオを結成した1966年、
ベーシストとして迎えたのがチャーリー・ヘイデンでした。
そして、2人は(アメリカン・クァルテットとして)'76年まで共演しました。
当時はフリー・ジャズを愛し、「寄らば切るぞ」という刀にも似た音楽性をもっていた2人でした。
ですから、なおさら今の優しさが沁みるのです。
収録されたのは、よく知られたスタンダード曲ばかり。
2人は深く聴きあい、音をそっと差しだしあいます。
行間で、音信不通だった30余年間の物語が語られます。
◆ ◆ ◆
キースは、2000年前後に慢性疲労症候群に罹患しました。
それも、ウイルス性だそうです。そんな病気が、あるのですね。
回復後、彼が次のように振り返りました。
「カーテンを開けて、閉める。1日のうちにできるのは、それだけ。
演奏活動は無理だろうと医師にいわれたが、ピアノを弾きたい一心でどうにか回復した。
とはいえ、いつ悪化するかわからないのがこの病気だ。
一期一会でピアノに向かう日が続いている」
それからでした。
キースのピアノが変わったのは。
ピアノを見つめるだけの日々を乗りこえたとき、彼の音楽に癒しの側面が加わったのです。
◆ ◆ ◆
再共演の機会は2007年1月、チャーリー・ヘイデンが自身のドキュメンタリー映画のため、キースにコメントを求めたことがきっかけでした。
そして3月、キースがヘイデン夫妻を自宅に招待し、2人は自然にホーム・スタジオに入り演奏したのでした。
30余年振りの共演。それも。デュオ。
そのときの録音がこのアルバム『ジャスミン』なのです。
3年を経てようやくリリースした経緯を、キースが次のように語っています。
「素晴らしい曲を揃えたので、曲に没頭するのは必然だ。
私たちはリハーサルをしなかったが、必要なときはコードをさらった。
そしてその後3年間、そのテープと共に暮らし、チャーリーと選曲や曲順について話しあった。
アルバムに『ジャスミン』と名づけたのは、夜に咲く香り高い花だから。
夜、パートナーや恋人と一緒に座って、聴いていただきたいラヴ・ソング集なんだ」。
そうです、広義のラヴ・ソングだと思えば、わたしが感じた「泣きたくなるような情感」にも説明がつきます。
ここにある優しさは、キースとしても「ラヴソング」としか言い表せないものなのでしょう。
◆ ◆ ◆
秋に、キース・ジャレットはトリオでの3年ぶりの来日公演を行います。
いつまでキース・ジャレット・トリオに最高の演奏を期待できるのかは、それこそ一期一会だと、招聘元の鯉沼ミュージックの方々も言います。
キースが世界で最も信頼するプロモーター、鯉沼ミュージックにしか言えないことです。
ゲイリー・ピーコック(b)の年齢を考えたとき、杞憂はもちたくありませんが、今聴かねばと思います。
自分たちが納得できない演奏しかできなくなったら、彼らは決してステージに立たないでしょう。
そして、ジャック・ディジョネット(ds)と3人で繰りだす音楽を特別に大事に思っているキースは、このメンバーで演奏ができなくなったら、別のメンバーで新トリオを組むことは、もうないでしょう。
このトリオの演奏もまた、いつからか、刃をあわせるのではない、温かな会話に変わってきました。
ジャスミンが夜しか咲かないように、
キース・ジャレットにも、またトリオにも「花の咲く時季」があります。
それが、キースが病から学んだ、深い真実なのだと感じています。







