Music Diary
[ 2010.07.28 ]
大西順子「バロック」リリース
久しぶりに、本物のジャズ・ピアノを聴いたという実感をもちました。
今日リリースになる、大西順子のユニバーサル移籍作「バロック」です。
ハードにスウィングするジャズ。
誕生した頃の混沌を内包するジャズ。
それが、新作「バロック」にあるのです。
ミンガスを飛び超えて、そこには21世紀のエリントン・ミュージックとでも呼ぶべき音楽が展開していました。
第一線の演奏家の3管。
そして、2台のウッド・ベースという大胆な発想。
冒頭から3曲、大西順子のオリジナルだ。
この3曲がすばらしい。
こんなに「伸びしろ」があったなんて。
今までどこに隠していたんだと、怒りと喜びがないまぜになった気持ちです。
◆ ◆ ◆
電話でしたが、彼女の肉声が聞きたくて、いろいろ聞きました。
まず、アルバム・タイトル名付けのわけを、彼女が次のように答えてくれました。
「トラッドでありながらアヴァンギャルドでもある今作の作風は、バロックに通じるものがあると思うのです。
ゆがんだ真珠。そんな意味もありますが、
時代的に言えば、バロックの前はルネサンスですから。
バロックも、当時アヴァンギャルドな面をもっていたのです。
今作は、プロとしての活動していたニューヨークに戻り、同世代の演奏家=第一線で活躍しているジャズ・ミュージシャンと録音しました。
私たちの世代が、レジェンド(ジャズ・ジャイアンツ)から直接に教えを受けた、最後の世代なんです。
スウィングは、ハウ・ツーでは教えることができません。
だから、レコーディングして示したかった。
内容はもちろんのこと、蜷川実花さんが撮ってくださったジャケット写真までをふくめて、宝物のように思っていただける作品を目指しました」
編成からしてユニークで、3本の管楽器に、コントラバスが2台とドラムス。そして、大西のピアノ。
「ファットなサウンドにしたかった」
と彼女はいいましたが、厚みというより3次元的奥行きがあります。
冒頭の「トウッティ」の勢い。
管楽器の微細なずれは、もちろん彼女が意図したものです。
そのずれから、暴力的なまでのエネルギー、官能が立ち昇ってきます。
整然とした、行儀のいいジャズばかりが世に溢れているけれど、闇を表現できてこそ真のジャズ。
「ザ・マザーズ(ホエア・ジョニー・イズ)」には(ジャズの生まれ故郷である)ニューオリンズの粒子が満ち満ちており、
ピアノ・ソロでの「スターダスト」では、夜空の星を鍵盤のうえに映して、きらめきを生んでいます。
思い返せば、東芝EMI時代の若き大西順子は、ミディアム・テンポの曲では、スウィングしませんでした。
それが、時を経て、テンポさえも自在に繰り出す、この美しい「スターダスト」をものにしたのです。
美しさに、ため息がでます。
音楽からまったく遠ざかった2年間もあった。
前作は、11年ぶりのアルバム・リリースだった。
生きてきたすべての日々、感じてきたすべてのエモーションが、ここにある音楽のなかで花開いているという印象を、わたしはもつのです。
「無駄なことは、何もないわね」
わたしが、そう言うと、順子さんは
「そうだといいけど」
と、静かに言いました。
◆ ◆ ◆
9月30日、「バロック」のレコーディング・メンバーをふくむ面々で発売記念コンサートをBunkamuraオーチャードホールで行います。
大西順子のリーダーぶりを見るのが、今から楽しみです!
パーソネル
大西順子:piano
ニコラス・ペイトン:trumpet
ジェームス・カーター:tenor and alto saxophones, bass clarinet, flute
ワイクリフ・ゴードン:trombone
レジナルド・ヴィール:bass on 1-3, 5-7
ロドニー・ウィテカー:bass on 1, 3, 5, 7
ハーリン・ライリー:drums
ローランド・ゲレロ:conga on 1
★2010年3月、ニューヨーク、シアー・サウンドにて録音
Produced by Junko Onishi and Kuninori Tamamori
Recorded and Mixed by Jim Anderson
Mastered by Alan Silverman







