Music Diary

[ 2008.11.14 ]

ザ・バッド・プラスの変貌

 ザ・バッド・プラスの作品のなかでも、新作の『フォー・オール・アイ・ケア』はちょっと異色。ヴォーカルが入っているのが、その第一の理由。第二の理由は、全曲がカヴァーで、ほぼロックで固めた点です。

 ニルヴァーナ〈リチウム〉に、ピンクフロイドの〈カンファタブリー・ナム〉。イエスの〈遥かなる想い出〉に、驚きのビー・ジーズ〈愛はきらめきの中に〉もザ・バッド・プラス流に再構築。
 インストで仕上げたストラヴィンスキーの〈ヴァリエイション・ダボロン〉は、ここまでくると読めるって感じ。

 でも、今回起用されたウェンディ・アンダーソンの声がいい具合に「元気な退廃」を感じさせるので、フツーのカヴァーにはおさまっていない。パティ・スミスを彷彿とさせるウェンディの声の質感もあって、今作ではバッドプラス自体にも「進化形パンク」の匂いがするのですね。そして、それが妙に似合っているのです。

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 そのウェンディ・ハリスに、注目したわたし。初めて聴いたので、少し調べてみました。

 彼女はザ・バッド・プラス同様、中西部を拠点とするシンガー・ソングライターです。かつてレア・ヴァレンタインと名乗り(といっても知らないと思いますが)、90年代からは自身の道を模索してきたのでした。初リーダー作は1995年のリリースで、昔からジャズへの興味をもっていたらしく、99年にはミネソタ州のジャズ・ピアニストのビル・カロゾルスとの双頭アルバム『The Language Of Crows』をフランスのワーナー・ブラザーズからリリースしています。そして、2000年以降は4人のメンバーと"レッドスタート"というバンドを組み、大人の味わいのあるロックを創造してきました。

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 では、この辺で、ザ・バッド・プラスについても書いておきましょう。
  3人組ですが、ピアニストのイーサン・アイヴァーソンがウィスコンシン州出身。ベーシストのリード・アンダーソンと、ドラマーのデヴィッド・キングがミネソタ州ミネアポリス育ち。3人とも30代で、実際に会うととてもまじめな人たちです。

 リード・アンダーソンが中学生の頃からフリー・ジャズが好きで、オーネット・コールマン・グループ時代のチャーリー・ヘイデンを敬愛しているそう。
 イーサン・アイヴァーソンはジャズとクラシック双方のルーツをもち、"ザ・バッド・プラス"を始めるまで、ダンス・グループのミュージック・ディレクターでした。

 ロック・バンドで歌うイーサンを見たデイヴィッドが声をかけたことから、バンド結成の伏線がうまれました。まだ2人とも、中学生でしたが。意気投合したふたりは、高校を卒業する'89年頃から、ウィスコンシン州のレストランなどでフリー・ジャズの演奏を始めました。フリーを演奏させてくれるレストランって、どんな料理をだしていたのでしょう?
 ともあれ、翌年には2人にベースのリード・アンダーソンが加わり、3人の顔が揃いました。

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 こうしてピアノ・トリオ編成になった3人は、"ザ・バッド・プラス"というバンド名を冠して、舞台を全米に拡大し、活動を始めます。
 2001年にデビュー・アルバム『The Bad Plus』を発表し、ピアノ・トリオの常識を覆すサウンドとコンセプトが話題を呼んで、翌年にはもうジャズ・クラブの殿堂、"ヴィレッジ・ヴァンガード" に出演する快進撃をみせます。そこでのギグを聴いた米コロムビア・レコードのスタッフが強力にリコメンドしたのがきっかけで、2003年にメジャー・デビュー。

 ニューヨークのJVCジャズ・フェスティヴァルや、イギリスのエジンバラ・ジャズ・フェスティヴァルなどに出演し、初来日し、信州で行われていたニューポート・ジャズ・フェスティヴァル・イン・斑尾に出演。ここでわたしは彼らと出逢ったのでした。

 当時の印象は、演奏が荒削りで、即興はあまりうまくないようだという、カンバしいものではありませんでしたが、エネルギーが溢れていたことと、アレンジがはまった曲はひどく面白いという、振幅のある印象でした。

 でも、メディアも聴衆も新しいものが好きでしょう?

 ザ・バッド・プラスは「史上最轟音のピアノ・トリオ」と呼ばれ、ジャズ以外の愛好者からも好かれて、人気を伸ばしてきました。

 メジャー第2弾となる『ギヴ』では、オーネット・コールマンやブラック・サバスのナンバーを独特の「バッド・ブラス調」に変換し、「ピアノ・トリオでもこんな大胆なことができます」というところを披露。リリースに合わせた'04年にブルーノート東京に来日し、会場を若い聴衆で埋めました。

 ユニバーサル・ミュージック移籍してからは、バート・バカラックやデヴィッド・ボウイのナンバーをカヴァーした『プログ』をリリース。どうも、オリジナルを演奏するより、有名曲を壊し、彼ら流に再構築するのが好きなようですね。

 そして、今回の『フォー・オール・アイ・ケア』。フリーの香りがどこかにあるプログレッシヴ・ジャズといったところが彼らの音楽ですが、今作でそこにパンクが加わった。これが、先ほども書きましたが、彼らの演奏にとてもあっているのです。

 実はパンク好き、というあなたは、このアルバムは聴き逃せません。
 わたしは、ザ・バッド・プラスの行方を見守りながら、しばらくウェンディを追いかけてみるつもりです。

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the bad plus
『For All Care』

ユニバーサル ミュージック株式会社
UCCM-1162
2008年11月5日発売
※ 権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。