Music Diary

[ 2008.10.17 ]

ジェームス・テイラーの『カヴァーズ』

 好きな声、ってありますよね。わたしたちの世代は、電話でも大いに愛を育んだので、声が今よりもっと大事なファクターでした。

 個人的には、わたしは女性は低い声、男性は力のある声が好き。でも、いつでも例外はあるもので、その美しき例外がジェームス・テイラーです。繊細で、決して男性的ではなく、どちらかというとか弱い感じもするのに、魅力的で、一度聴いたら忘れられない。

 彼をスターダムに押し上げた〈ファイアー・アンド・レイン〉。少女時代にテーマ曲のようにして聴いた、キャロル・キング作詞・作曲の〈君の友だち You've Got A Friend〉。

 マイケル・ブレッカーのバラード作『ニアネス・オブ・ユー:ザ・バラード・ブック』で歌ったジェームスのオリジナル、〈ドント・レット・ミー・ビー・ロンリー・トゥナイト〉にも心を打たれました。これは1972年の『ワン・マン・ドッグ』に収録されている曲で、マイケルがスタジオ・ミュージシャンとして、ジェームスと初めて仕事をしたときのナンバーだったのです。

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 マイケル・ブレッカーを通じて知ったのは、ジェームス・テイラー(1948年ボストン生まれ)が登校拒否だったこと。というか、全寮制の厳しい進学校になじめず、精神のバランスを崩し、ドロップアウトしたこと。

 フライング・マシーンでデビューした後、ドラッグとの縁を切るためにもイギリスに渡り、ビートルズで知られるアップル・レコードからデビューしたこと。 でも売れなくて、再び精神的なバランスを崩したこと。

 1970年に『スウィート・ベイビー・ジェームス』を発表し、そこからシングル・カットされた〈ファイヤー・アンド・レイン〉が大ヒットしたこと。

 ヴェトナム戦争に抵抗する、若者たちの反戦運動。そして公民権運動。激動の1960年代にいささか疲れていた若者たちに、ジェームス・テイラーの歌声は、やさしい子守唄のように響いたということでした。
 そしてジェームスご本人も、歌声そのもののような、やさしい人なのだそうです。

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 そのジェームス・テイラーの新作『カヴァーズ』を、よく聴いているこの秋。

 ええ、カヴァーを集めたアルバムなんですが、これまでステージではたびたび歌っていながら、一度もレコーディングしたことがない楽曲を集めたものなのです。

 選曲的にはかなり通好みかもしれないのですが、彼のレコード棚をみているような気分。「へぇ、こんな曲が好きなんだ」っていう、新発見がありますね。

 それに、ジェームス・テイラーの歌には普遍的な愉しさがあるのです。彼の歌声には、今言うところの「ゆるさ」があり、そのやさしい歌声で歌われると、どんなヒット曲も一様にジェームス色に染まるのが興味深いですね。

 ご本人も、次のように語っています。

 「ぼく自身はシンガー・ソングライターだけれど、歌詞の世界を解釈して歌うのは、オリジナルでもカヴァーでも、歌手としては同じ。この新作では、他の人が書いた曲を大いに楽しんで歌いました」

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 カントリーの名曲〈ウィチタ・ラインマン〉からは、アメリカの原風景が広がっていくのがみえます。テンプテーションズのカヴァー〈イッツ・グローイング〉からはソウル色がぐっと薄まり、活気ある'60年代の景色が映し出されます。

 そんなヴィジョンが見えるのは、ジェームスの歌声がこの数十年間ほとんど変わっていないせいでしょう。張り上げず、ソフトに歌いながら、そこに魂をこめる。

 ジェームス・テイラーの歌を聴いていると、肩の力がぬけ、自然に深い呼吸をしているのに気づくのです。

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ジェームス・テイラー
『カヴァーズ』

ユニバーサル ミュージック株式会社
UCCO-3007
2008年10月1日発売
※権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。