毎日新聞、大友良英&あまちゃんスペシャル・ビッグバンド 2014.01.09掲載
毎日新聞 1月9日 夕刊(関東版)「らっこ」掲載
斜に構えず分かりやすく
2013年を彩ったテレビ番組『あまちゃん』とその音楽は、一種の社会現象だった。
ドラマ自体が、音楽をそのファクターとして重要視し、
1980年代の“アイドルが真のアイドルであった時代”へのオマージュとしても素晴らしかった。
脚本を書いた宮藤官九郎と、音楽を担当した大友良英には、制作のふるまいとして共通点があった。
決して、斜に構えないことである。
そこから、祝祭的なテーマ曲や、他のキャッチーな挿入曲が生まれ、視聴者の心を打ったのだ。
その結果、“アヴァンギャルド”“フリージャズ”という枠で語られてきた大友は、
レコード大賞作曲賞を受賞し、国民的な作曲家になった。
人気を支えたのは、「NHKの朝ドラは見ていなかったけれど、今回は別」という大人の層と、
普段はEXILEやAKB48といった“グループ音楽”を愛する若年層、この両方とみていいだろう。
大友の音楽には、もともと、どれだけノイズに溢れていようが、メロディックに響く要素が含まれていた。
そんな彼が『あまちゃん』では、クレイジー・キャッツを範とするコミックバンドへの憧憬もこめ、
ひたすら分かりやすく楽しい音楽(宮藤による歌詞は多分にパロディだ)を送り出すことに注力したのだ。
その背景には、自身の出身地で、震災直後から復興支援に関わってきた福島への熱い思いがある。
『あまちゃんスペシャル・ビッグバンド』の最終公演は、『新宿ピットイン』で行われた。
同店49年の歴史のなかで、初めて、小中学生の親子が幾組も客席にいた。
大友は「“ジャズの殿堂”の舞台に全員でのれることがわかったので、これからも名前を替えてバンドを続けていく」と言う。
たとえ“あまロス”にかかっても、彼らの音楽が最高の治療薬になることだろう。
12月29日、新宿ピットイン
(音楽評論家・中川ヨウ)